抜歯について

   
         
     

  歯が痛い時、腫れた時、いっそこんな歯なんかなければいい、一刻も早<抜いて!……そう思われるでしょう。お気持ちはよ<分かります。
ただ、すぐ抜けるとは限りません。その理由をお話ししましよう。

急性症状は、まず抑えてから。

 まず、急性症状のある時は抜けません。発赤、腫張、疼痛などが強けれぱ、局所麻酔が効きに<い。末梢血管が拡張していますから、麻酔液がすぐに吸収されてしまい、局所にとどまりにくく、さらにはアルカリ性の薬液は酸性の局所で中和されてしまいます。当然、抜いた後の出血も多<、術後反応も強<現われ、治癒も遅れがちです。
  したがって、こんな時はまず、抗生物質や消炎鎮痛剤を使って、急性症状を抑えなければなりません。通常は3〜5日、薬を服用して十分消炎を確認してから、抜歯を行うのが得策です。一時の症状が消えると、急に抜歯をためらう方も多いのですが、本当に抜かなければならない歯は、むしろ症状のない時にこそ抜くことが望ましいのです。

受診中の病気にも、注意が必要。

 また、一般医科で受診中の患者さんも、簡単には抜けません。たとえば心筋梗塞や脳梗塞で受診中の場合、血栓防止のため「血を固まりにくくする薬(抗凝固剤)」を使用している方が多い。そのまま抜歯すれば、止血できない可能性があります。主治医とよ<相談し、必要があれぱ一定期間休薬して処置をします。透析を受けている方も同じ理由で、同様の注意が必要です。
  高血圧の場合、抜歯中・抜歯後の出血量が多いだけでな<、注射や抜歯操作に対するストレスなどで一気に血圧上昇した場合、脳などの微小血管が破裂する可能性を否定できません。少なくとも一定期間、一定の数値以下にコントロールしていただ<必要があります。
  糖尿病では、一般に感染に対する抵抗力がやや弱<、出血しやすいことが知られています。事前に十分な抗生物質の投与や、血糖値の管理が必要なことが多いのです。
  ステロイドを服用中の方も配慮が必要です。病状や使用量によっては、しぱらく経過観察をするだけのことも珍しくありません。
  貧血など血液疾患も、注意が必要です。鉄分が不足していても、それ以外の凝固因子と呼ぱれる成分が不足していても、止血が困難になります。

抜歯も「手術」。あ<まで慎重に。

 ずいぶん面倒に思われる方もおられるでしょう。しかし問診票で確認はするものの、患者さん自身の記憶ちがいや度忘れなど、ままあるのも無理からぬこと。したがって、より正確な全身状態の把握のため、主治医との連絡は大切です。
  また、病気ではありませんが、女性の場合、生理日と翌日は血が固まりにくくなっているため、急を要さぬ限り、抜歯は延期した方が無難です。
  親知らずの抜歯などは、局所症状、全身状態に加えて、埋まっている位置や根の形態などについて、事前の十分な検査が必要なことも少なくありません。
  小規模ながら抜歯は手術の一種です。少しでも長く歯を残したい、という願いは患者さんも歯科医も同じですが、それでも抜歯の必要が生じたら、以上の点を十分考慮して、より安全・確実な処置のため、適切な時期と方法を歯科医師と一緒に考えて参りましよう。
                                      (鎌倉市歯科医師会 小林晋一郎 こぱやし歯科)