鼻呼吸のすすめ

   
   

 
  今年の春、長男が卒園した時の話です。式も終わって謝恩会となり、お待ちかねの昼食になりました。カニやデザート入りの子供達が喜びそうなお弁当でしたが、ふたを開けても歓声を上げるでもなく、黙々と口を動かすばかりで、よく噛んで食べている子は皆無でした。
  TVで見た話になりますが、行革を実行した土光敏夫さんは、質素倹約をモットーにした方です。朝食は焼き魚を中心としたご飯とみそ汁で、たくあんや魚の頭をバリバリと音を立てながら食べている姿が印象的でした。土光さんのアゴは固い物を食べているため角張っていました。今の子供たちの大好きなカレーやハンバーグ等を中心とした食生活では、しっかりと噛むことができるでしょうか?それは子供の生活習慣にも関係しているようです。
  「腰」が大事なのは誰でもよく知っています。戦国時代の武士達は刀を腰につけていました。
馬に乗る時も、弓を引く時も腰がしっかりと入っていなければなりません。ある構造医学の先生は、骨盤は重力の補正装置であり、下アゴは振り子のようにそのポジションを補正していると言っています。確かに腰や骨盤、姿勢の状態は、噛み合わせに関係しているように思えます。
  私は子供達に、先ず「良い顔(アゴ)を育成する」事が大事だと話します。アゴは本来前方に発育させなければなりません。
  ヒトは進化の過程でサルから類人猿と呼ばれる我々の先祖まで、長い時間をかけて、少しずつ二足歩行するようになりました。それに伴い脳が発達し、脳重量も大きくなり、その結果アゴは下方に育つようになりました。しかし骨格の問題だけでなく、その骨を支持し、スムーズに動かしているのは筋肉です。噛んで下アゴを成長させることも大事ですが、筋肉が充分に育成されなければなりません。特に口の周りの筋肉で重要なのは咬筋です。字の如く咬むための筋肉です。
  今現在小顔ブームで、顔(アゴ)が小さい方が美しいとされる傾向にありますが、美人の代名詞のようなオードリー・ヘップバーンの横顔をみるとアゴがしっかりとしているのがわかります。
  口を開いていると口の周囲の筋肉(口輸筋)が弱くなります。「うちの子は鼻が悪いのでいつも口を開いています」と言うお母さんが多くいらっしゃいますが、常に口を閉じることを意識し、食事は口輸筋や表情筋を伴った前歯で噛んで食べることが大事です。日常生活が治療ですから、唇をいつも閉じている自覚が必要です。
我々人類は開咬(口がたえず開いている噛み合わせ)になりやすい。しかし直立していても必ず開咬になるわけではない。絶えず口を閉じさせる神経筋機構が働いているからです。
  動物の中で口で息をするのは人間だけで、子供にとって口で呼吸することはとても楽ですが、口呼吸になると、扁桃腺等の免疫系がおかされ、アトピーになりやすいと指摘されています。
  鼻呼吸をすると、鼻毛という立派なフィルターでバイ菌を吸着し、暖かい空気を肺に送ることが出来ますが、口呼吸は湿った空気が肺に運ばれるため全身状態にも良くありません。
  今TVを見たりゲームをしている子供達が、ポカンと口を開いていたら「口を閉めなさい」と早速注意してみたら如何でしょうか。

                                      (鎌倉市歯科医師会 島村泰行 手広デンタルクリニック)