母乳と虫歯

   
   

 私たち歯科医師が、一歳半児健診で口腔診査時に発見するむし歯を持っている子供は、まだ夜中に母乳を飲んでいるケースが多く見られます。母乳を飲んでいてできたむし歯は非常に特徴的で、上の前歯の表面のつけ根と歯の裏側に出来ます。一般には前歯の裏側は唾液によって洗われやすいのであまり虫歯にはなりません。事実、日本小児歯科学会で一歳半児でむし歯になっている子供を謁べたところ、人工栄養乳で育ったお子さんよりも母乳で育ったお子さんのほうがむし歯になっている比率が高かったのです。
  母乳は、栄養的にも、免疫についても、また精神的にも満足感を与え、口の周囲の筋肉の発達にも多く寄与していることは広く知られとていることですし、小児科の先生で母乳は吸いたいだけ長く吸わせたほうがよいと考え、そのように指導している先生もいます。母乳を与えることは最も強い親子の結びつきであり、母乳による育児は積極的に薦められるものです。
  では、母乳の飲ませ方とむし歯について考えてみましょう。
  乳幼児は母乳を飲むときは、舌を上顎におしっけて乳首をしごいて飲みます。皆さんも口を閉じてみてください。舌の先は上の前歯の裏面に触れており、唇は上の前歯の表面に接しています。昼間は母乳を飲んでも口を動かしたりしますし、唾液もいっばい出ますので口の中の母乳は洗われていて、歯の表面に停滞しないのですが、夜中は母乳を飲んで、または飲みながら寝てしまうことが多いので、舌と前歯の裏面、唇と前歯の表面の隙間に母乳がたまります。夜間、睡眠中は唾液の分泌は減少しますし、幼児の体温は37度近く、むし歯の原因菌は乳酸菌、それこそ字の示すごとく乳を酸にする菌が活躍し、口の中で酸を作り出し、歯の表面を溶かしてむし歯が出来るのです。
  では何で人工栄養乳のお子さんは虫歯になりにくいのでしょう。 母乳を与えているお母さんにとっては、
おっぱいを出すだけで簡単に授乳が出来るので、夜泣きをするとすぐ授乳をすることが出来ます。
  一方、人工栄養乳で育児をしているお母さんが夜中に授乳するのは、お湯を沸かしミルクつくりをしなくてはならないので、就寝前に充分ミルクを飲ませ、なるべく夜中に起きる必要がないようにし、夜中の授乳が少ないため、むし歯になりにくいと思われます。
  結局、母乳栄養のお子さんにむし歯が出来やすいのは、母乳の与え方に問題があります。
  むし歯を作らないようにするためには、夜中の授乳の回数を減らし、授乳の後、口の中と歯の表面をきれいにすることです。授乳後せっかく満足しきって寝ている子を起こすようなことをするのは忍びないとは思いますが、なるべく起こさないですむようぬるま湯を浸した綿やガーゼで口の中をぬぐってあげてください。
         (鎌倉市歯科医師会 槙本 光 エンゼルファミリー歯科)参考文献 日本小児歯科学会雑誌42巻5号