入れ歯への工夫

   
   

 部分入れ歯のお話の2回目です。前回は、「入れ歯のばねはその特性上、入れ歯を出し入れするたびに、ばねがかけられている歯を横に揺さぶってしまう」というお話をさせていただきました。           
  じつはばねをかけた歯に加わる力は、入れ歯の出し入れのときにかかる力だけではありません。   
  入れ歯は人工の歯の部分に加わる様々な力によって沈下し、同時に直結されているばねによってその沈み込む量だけ、歯に対して欠損側方向(歯が抜けてしまっている側)へ引き倒そうとするもうひとつの力(・・・・・・・)が働きます。この量は顎堤粘膜の被圧縮量(入れ歯がのっている歯ぐきにどれくらい弾力性があるか)によって左右され、その平均は約0.3mmといわれています。つまり計算上は、部分入れ歯を入れて物をかむたびに、ばねをかけた歯は0.3mm揺さぶられていることになり、これは平均的な歯の側方圧に対する限界変位量(歯に加わる横からの力に対してどれくらい抵抗できるか)0.15mmの約2倍の値となります。もしこれが長期間続けば、歯がぐらぐらしてきたり痛みが出る大きな要因となるわけです。
  もちろん実際の入れ歯の設計には、ばねをかける歯に対しできるだけ負担がかからないようにさまざまな工夫が盛り込まれます。そのいくつかをご紹介してまいりましょう。
  ひとつ目は、入れ歯の面積はできるだけ広くとってやるという原則です。面積を広くすれば、それだけ入れ歯にかかる機能圧を顎堤粘膜に分散することができるため、結果的にばねがかかっている歯にかかる負担が減少します。「大きい入れ歯はいやだからできるだけ小さくして下さい」というご希望に対し、不必要に入れ歯の面積を小さくしてしまうのは、かえってばねをかけている歯にはよくないのです。
  二つ目は、ばねを出し入れする際に歯を揺さぶってしまうことに対する対処です。ばねのデザインを決める際は、歯を側方に押す力が加わっている間、その力に対して拮抗できるような設計をして、歯を守ってやる必要が出てきます。そしてもうひとつ重要なことは、ばねをかける歯自身がそれに適した形態をとっていないと設計が難しいということです。
  ところが、ばねをかけようとする歯の形態は百人百様です。そこで必要に応じて、ばねをかける歯の形態を修正したり、時には冠をかぶせることによって適切な形態を付与することもあります。「できるだけ歯を削ってほしくない」とおっしゃるお気持ちはよくわかりますが、削らずに無理にばねを設計することで、かえってその歯の寿命を短くすることもあるのです。
  ばねは、部分入れ歯にとってなくてはならない、いわば劇の主役的存在として見られがちです。しかし、長期間機能的に問題のない部分入れ歯は、その患者さんの口の中の状態を十分に診査し、よい入れ歯に必要な様々な因子をすべてもらすことなく設計に盛り込むことによってはじめてできあがります。ばねはその数多い因子のひとつに過ぎないのです。
  患者さんは不快だなと感じることもあるかもしれませんが、前処置としての歯の形態修正・入れ歯の大きさ・ばねのデザイン・ばねをかける歯の数や配置など、みなそれぞれ重要な意味を持っているのです。ぜひ入れ歯への工夫に対するご理解を深めていただき、ばねがその持てる能力を最大限に発揮できる環境を整えてあげましょう。
                                                        宮本績輔   (宮本歯科医院)