ばねのない入れ歯?

   
   

 入れ歯のばねは、入れ歯が落ちたり動いたりしない様にするための入れ歯には欠かせない部品です。同時にばねは、「入れ歯の出し入れや食事のたびに、ばねのかけられている歯を横に揺さぶってしまう」という性格の持ち主でもあります。           
  前回は、ばねをかけることでその歯をゆさぶり、だめにしてしまわないよう、いくつもの工夫をしなければならないことに触れました。その中には、入れ歯の大きさは可及的に大きくし、ばねのかかる歯は必要があれば形態修正するなど、患者様のご理解をいただきたい項目もありました。
  長期間、機能的に問題のない部分入れ歯を作るためには、その患者様の口の中の状態を十分に診査し、よい入れ歯に必要な様々な因子をすべてもらすことなく、設計に盛り込むことが肝要です。
  ではそのようにして完成した部分入れ歯は、必ず長期間にわたり違和感のない、使いやすい入れ歯になるのでしょうか。残念ながら答えは「否」です。というのは、入れ歯のばねには限界があるからなのです。
  食事中、すなわち入れ歯がその機能をもっとも果たさなければならないときに、過大な力がばねをかけた歯に集中します。その結果、考えうる限りの工夫を入れ歯の設計に盛り込んだとしても、ばねがかかっている歯に対して、その歯の持つ許容範囲量をはるかに超えた力が加わってしまうケースがいくらでも存在します。
  もちろん「残っている歯が非常に大きくしっかりしていて、なおかつ、歯を抜いた後の顎の骨の高まりが形良く残っている」といった条件の良いケースでは、通常のばねを用いた設計で十分満足いただける入れ歯を作ることが可能です。
  しかし残念ながら、そのようなケースは日本人の場合あまり多くはありません。これは骨格的な人種間の差が大きく関与しています。骨格的にがっしりとして、一本一本の歯が大きく厚みがある白人に比べ、日本人はどうしても骨格的には劣性で、入れ歯を入れる際の口の中の条件もあまりよくないのです。
  では残っている歯がだめにならず、しかも快適に長期間使える部分入れ歯は、夢の中のお話しなのでしょうか。ばねを使用した入れ歯には限界があります。そこで、夢を現実にするために、1970年代半ばから「ばねのない入れ歯」が数多く考案され、実用化されています。
  ばねは入れ歯が機能時に動くことを前提にしていますが、「ばねのない入れ歯」は残っている歯と入れ歯を一体化させ、できるだけ機能時にかかる力を、歯と粘膜に均等に配分することを目的としています。それによって長期的に予知性の高い、機能的に優れた入れ歯の設計が可能となります。
  残っている歯と入れ歯の両者を一体化させるために、双方に特殊な、いわばオスメスのような形態を付与することにより、お互いがカチッとはまり込むような形で連結し、固定されます。
  この特殊な機構には、いくつかの技法があり、それぞれの利点・欠点がありますので、その適応には十分な診査や前処置が必要となります。また、通常の入れ歯を作るよりも、かなり煩雑なステップとなり、治療期間もそれなりに必要です。さらに、「ばねのない入れ歯」は保険診療の範囲外となっており、費用の問題も絡んできます。
  ただ、ばねを使用した入れ歯の限界に直面しお悩みの方は、一度かかりつけの先生にご相談されてみてはいかがでしょうか。
                                                         宮本績輔 (宮本歯科医院)