歯は生きている −歯の咀嚼時の動きについて

   
         
     

咀曙力によつて変位する歯

  歯が動くと言っても、歯周病の話ではありません。
  歯は、硬い骨の中にあって動かないというイメージですが、じつは、動いているのです。
  正常な機能を営む歯0.1o程度の動きを示すことは、歯の生理的動揺という言い方で知られています。ここでは、それとは別の面から、健康な歯の機能時(咀嚼時)の動きについて簡単にご紹介したいと思います。
  東京医科歯科大学の長年の研究により、機能時(咀嚼時)ならびに安静時の歯の動きについて、従来知られていなかった事が分かってきました。
  機能時(咀嚼時)は、咀嚼力のために歯が変位、つまり動いてその位置が変わるのです。歯の変位の測定は1950年頃から始まり、現在では3次元測定に基づいた鳥瞰模式図が描ける程に、明らかになっています。
  歯の部位によって移動する量、方向、経路は異なりますが、例えば上顎大臼歯では口蓋側歯根方向(内上方)へ約100ミクロン、下顎大臼歯では舌側(内側)方向へ約50ミクロン位置を変えて動きます(咬合力は、主に上顎により緩衝されていることを意味する)。
  また安静時、すなわち歯が咀嚼力から開放されている状態では、歯根膜の血管に由来する歯の振動が見られます(0.6〜0.8ミクロン)。この振動は心電図と同期している、つまり歯の脈動といえるのです。

「動き」は、歯列全体の調和に重要

 歯は骨の中に直接ついているのではなく、歯根膜という薄いコラーゲン組織を介して顎骨の中に生えています。この歯根膜があるからこそ、咀嚼時の微妙な噛み心地を味わうことが出来ると言えましょう。
  歯と歯の間にはわずかな隙間が存在し(3〜21ミクロン以上)、安静時には、隣在歯と隙間を保った状態で脈動しています。そして機能時(咀嚼時)には、歯が歯槽骨内に押し込まれながら内側へ、歯列全体としては、その幅を狭める方向へと移動し、歯と歯の間の隙間がなくなり、歯同士が緊密に接触するのです。
  このことによって、歯列全体として、強い咬合力に対応するとともに、歯と歯の間(隣接接触部)に食べ物がはさまるのを防ぐ意味があります。
  つまり、歯は歯列全体として巧みに調和を保ちながら咀嚼機能を果たしているわけです。歯の治療に際しては、上に述べたような歯の機能時、安静時の動きを妨げることのないよう、十分な配慮が必要となります。

ご自分の歯を大切に。

   〈参考文献〉  日本歯科医師会雑誌  2002年12月号 長谷川成男 ・「クラウン修復のための隣接接触部の考え方」
                                            ・「隣接接触部には空隙がある」
                                               (鎌倉市歯科医師会 木村典由 木典歯科)