歯の引越し

   
   

 親知らずと聞くとどういう印象がありますか?
抜くと痛いし腫れる、奥に生えるので磨きにくい、横に生えたりしている等、あまりいい印象はないでしょう。

  しかし親知らずの立場になってみると、こういう言い分もあります。

  親知らずの言い分
 「せっかく生えたくても他の歯のようにスペースがないから横向きにしか生えられない。運良く生えても奥だから磨いてもらえないし、かみ合わせできない。挙旬の果てには、あっても役に立たないし、虫歯になりやすいとか、もうなってるからと言って歯として機能できずに抜かれてしまう…。好きでこうやって生えてるわけでもないのに…、できればもっと快適な環境に生えてかんでもらいたい!」とこのような親知らずの言い分を聞いてくれるような「歯の引越し方法」がある事を知っていますか?
 歯も人間の臓器の一部であります。最近医療において角膜、腎臓、肝臓、肺、心臓等の臓器移植のことがマスコミにおいて話題になることが多いようですが、実は歯も移植できるのです。同一固体(自己)の臓器を切り離して、その他の部位に生着させることを自家移植といいますが、移植される臓器が歯の場合、自家歯牙移植といいます。この歯が他人のものである場舎は他家移植といいます。他家移植は、免疫反応(拒絶反応)が発現するため、免疫抑制剤を使用しますが、その全身的な副作用の大きさを考えると、歯牙移植には適していません。またHIVウィルス(AIDSウィルス)や肝炎ウィルスに感染する可能性からも、歯牙移植の場合はほとんどが自家歯牙移植です。

 移植の方法ですが、まず保存不能になった歯を抜歯し、次に移植する歯を一旦抜きます。そのため移植歯の神経は断裂しますので、移植して数週間以内には根の治療が必要です。根の状態が完成してない歯(根未完成歯)を移植した場合は移植後に神経が生き残るケー.スもあります。その後必要であれば、隣の歯と仮の固定をします。うまく治療がすすみ早ければ、2ヵ月後位にはかめるようになる事もあります。これが「親知らずの引越し」です。

  引越しの条件としては、形態や幅・抜歯時の歯根・歯根膜(歯と顎骨をつないでいる組織)へのダメージの有無、受け入れ側の移植床の形成ができるかできないかが重要な要素になります。移植床については、すでに歯のないところに歯牙移植するのですから、移植歯とその歯のないところの顎骨のサイズが合うかどうかが一番考慮されるものとなります。また、保存不能な歯を抜いて、同日に歯牙移植する場合は保存不能とされる歯の周囲骨が吸収を受ける前に行われるべきであります。その理由は歯がなくなって経過が長い所は、骨が痩せるため移植歯のサイズと合いにくくなるからです。

  これらの種々の条件をクリアし適切な処置が施された場合、移植された歯牙の長期の再利用が可能になります。そういった意味では若・壮年者は移植の適用対象として好条件が多いようです。

  しかしながら中年期以降の患者さんで全体的に歯周病が進行し抜歯が必要になった部位では移植に必要な骨量も少なく、利用したい移植歯自体に骨を誘導する歯根膜の絶対量も足りず移植できない場合が多くあります。

  自家歯牙移植は健康保険上でも認められていますが、全てのケースというわけではなく「親知らずで根のできていない歯」という前提条件があります。そのため患者さんの年齢(親知らずが完成していると思われる年齢)によっては移植を行うことが有効と思われても健康保険が適用されないことが多いのです。
このように移植は全ての人が受けられるわけではない特別な治療ですから、やはり今残っている歯を大切にすることが最も重要です。
                                       (鎌倉・大船歯科医師会 脇田秀明 脇田歯科医院)