胃熱(いねつ)と口腔内の疾患

   
   

 人体の消化管は、口から肛門まで一本の管でできています。口から入った食物は、この管を下降しながら消化・吸収され、残りは肛門から排泄されます。「胃熱」とは東洋医学の用語で、胃に熱が鬱積(うっせき)して食物の下降を妨げ、管内部に滞りが生じた病態を表します。
「胃熱」を引き起こす原因には、飽食・油っこい物・辛い物・味の濃い物などの嗜好・飲酒・喫煙・精神的緊張などがあげられます。また症状としては、胃部の灼熱感・むねやけ・口が乾いて冷たいものを飲みたがる・空腹感が強く食欲が亢進する・便秘・悪心・嘔吐・肩凝りなどが見られます。さらに「胃熱」は管を上昇して口腔内にも影響を及ぼし、歯肉の腫れ・出血・口内炎・口臭・歯ぎしりなどの様々な症状を引き起こす原因となります。
私の診療所に来院される方々のなかにも、口腔内の疾患とともに胃の症状、便秘、紅い舌質、黄色い舌苔などの「胃熱」の症状を訴える方が少なくありません。このような場合、漢方薬や鍼灸といった東洋医学的な治療法が効果を発揮します。
まず漢方薬では、「胃熱」に対して清熱作用をもつ方剤を使用します。例えば白虎湯(ビャッコトウ)(石膏・知母(チモ)・粳米(コウベイ)、甘草(カンゾウ))は肺胃の熱を治療する主方です。方中の石膏、知母は口内炎によく用いられ、特に石膏は局部の腫れた症状に効果があります。また黄連解毒湯(黄連(オウレン)・黄?(オウゴン)・黄柏(オウバコ)・山梔子(サンシシ))は五臓六腑全ての炎症に対する処方です。特に黄連は胃の熱を清し、山梔子は利尿作用によって熱を除去します。さらに調胃承気湯(ジョウキトウ)(大黄・芒硝・甘草)は胃から大腸までの消化管を掃除するような作用があり、胃に滞った熱や食物を大便とともに排泄させることで、口腔内の症状を改善します(一般の下剤は大腸のつまりをとるだけで、胃には作用が及びません)。
鍼治療は、中国古代から伝わる経絡理論に基づく治療法です。この理論によれば、人体は頭から足まで経絡というネットワークがはりめぐらされており、体表と内臓とを連絡しています。特定の臓器に異常があると、その臓器に関連する経絡上の経穴(つぼ)に反応が現れ、逆に経穴への鍼刺激は臓器の失調を整えます。
胃腸の熱は、足の陽明胃経と手の陽明大腸経という経絡(ケイラク)に沿って口腔内を障害します。そこで、胃経の「内庭(ナイテイ)」「足三里(アシサンリ)」、大腸経の「合谷」「曲池(キョクチ)」などの経穴に鍼を刺して熱を清します。さらに、「下関(ゲカン)」「頬車(キョウシャ)」という経穴に刺激を加えることで、局所の腫れや痛みを緩和します。(効果を持続させるために、皮内鍼という短い鍼を皮下にとどめることもあります)
東洋医学には、「未病治(ミビョウチ)」という言葉があります。これは、今ある病気を癒すのではなく、発病前にそうならないように予防することを意味しています。健康維持のため、さらには国民医療費の増大を防ぐためにも、食生活の改善に心がけ下さい。
                                           (鎌倉・大船歯科医師会 福島厚 福島歯科医院)