入れ歯の顔

   
   

  皆様に総入れ歯のお話をさせていただくのは、今回で三回目となります。
 第一回目では、「なかなか思い通りに使いこなせない総入れ歯と仲良くお付き合いをするためには、総入れ歯の持つ特性について知ることが大切です」というお話を致しました。
 前回は、総入れ歯によって引き起こされる種々の不快感の原因のうち、入れ歯がのっている口の中の要因である「顎堤(がくてい)(歯茎)」について、ご理解を深めていただきました。
 今回は、形態や噛み合わせといった入れ歯側の要因に関するお話をさせていただこうと思います。
 総入れ歯を装着されている患者さんに、「何か気になるところはありませんか」と尋ねますと、「上の入れ歯の奥の方が長過ぎて気持ちが悪くなるので、もっと短くして欲しい」「食事中、噛むたびに入れ歯が動いてしまって食べづらい」といった訴えをよく耳にします。これらの不快感の原因は、その“入れ歯の顔”に均整がとれていないということが、かなりのウェイトを占めています。
 「入れ歯の顔」ってなんでしょう。私たちの顔に目や耳や口があるように、総入れ歯も人工の歯の部分、顎堤に接触している内側の部分(粘膜面)、そして外側のきれいに磨かれた部分(床研磨面)の三つのパーツで構成されています。
 人工歯は、文字通り歯の代わりとなってくれるものです。前歯の形態や突出度、また笑った時の見え方などは、その人の口元の感じを大きく左右します。特に前歯を並べていく際に、前方への突出度が不足すると、どうしても口元が寂しい感じになりますので、噛み合わせを採る時や試適を行う時に、口唇の張り具合のチェックを十分に行う必要があります。
 臼歯の人工歯はよく噛める入れ歯を作るために、その並べ方と並べる位置が問題となってきます。並べ方には基本的な方法がいくつかありますが、個々の口の中の顎堤の条件や上下の噛み合わせの位置関係、噛み癖といった習癖などを考慮して選択します。並べる位置は、人工歯の間に食物が介在して入れ歯に噛む力が加わった時、入れ歯が出来るだけ動かない方向に力が伝達されるように気を付けて決定していきます。
 次に粘膜面の形態ですが、これは顎堤の型を採る(印象採得といいます)時に決定されます。印象方法や材料には色々ありますが、その組み合わせにより、得られる粘膜面の形態も微妙に異なります。ここで大切なことは、個々の症例に応じて、機能時に入れ歯にかかる力が顎堤粘膜に適性配分されるような組み合わせを選択することです。
 さらに、精密に再現された口の中の模型に対して、入れ歯の製作過程で生じる誤差を可及的に少なくし、いかに模型と適合の良い入れ歯を作っていくかが鍵となります。顎堤との適合精度の高さは、その入れ歯が口の中でがたついたり、外れやすかったり、痛みが出やすかったりといった不快感に大きく関与する要因となるからです。
 床研磨面の形態については、舌や頬の運動や形態との調和といった点が問題となってきます。咀嚼(そしゃく)や発音といった基本的な機能時はもちろんのこと、舌や頬粘膜は常にその形態を変えながら運動しています。床研磨面の形態は、それらの運動と調和するよう決定されるべきで、おのずから基本的な形態は決まってきます。
 例えば、粘膜面から床研磨面への移行部となる入れ歯の辺縁の厚みなどは、あまり薄すぎてとがったような形態にすれば、機能時に辺縁が食い込んで、痛みとして不快症状が現れますし、逆に厚すぎれば、舌や頬粘膜の自由な運動の妨げとなり、その結果、入れ歯が外れてしまう一因ともなります。また、入れ歯の内側の研磨面の形態は、舌の運動や発音に影響を及ぼすため、特に人前でお話をされる機会の多い方の場合などでは十分な考慮が必要です。
 今までお話してきましたように、総入れ歯を構成する三つのパーツは、自分の役割を果たすために機能的な面と審美的な面の両面から、かなり憤重なチェックを受けなければなりません。しかもそれぞれがお互いにばらばらというのではなく、均整がとれた状態で組み立てられていないと、いい入れ歯の顔という訳にはいかないのです。
 さて、あなたの入れ歯の顔はいかがでしょう。
                                         (鎌倉・大船歯科医師会 宮本 績輔 宮本歯科医院)