口腔がんの話

   
   

「ロの中にも『がん』ができるんですか?」と、患者さんから時々きかれます。答えは「イエス」です。さらに言えば、全身のあらゆる場所に「がん」はできる可能性があるのです。「治りにくい口内炎」として気付かれることの多い口腔がん (口の中に生じるがん)。気になるときは一人で悩まず、まずはかかりつけの歯科医院で相談しましょう。

異常な縄胞の増殖でできるがん
  そもそも「がん」とは何でしょう。専門的には、「自律性の、不可逆的な細胞の増殖」と言われています。つまり、もともとあった細胞が、勝手にどんどん増え続けて止まらなくなってしまうのです。爆発的に細胞増殖した部分は密度が高くなり、したがって硬くなります。現在の「癌」と表記する以前は「巌」あるいは「岩」と表記したのも、まさにそこに由来するのです。
  しかも、増殖するのは正常な細胞ではありません。もともとの細胞(発生母地)から変化した「異常な細胞」なのです。
  私たちの体は、全部で60兆個の細胞から成り立っていると言われていますが、もとは一個の精子と一個の卵子が結合し、それが次々と分裂したものです。その過程で、身体各部の「機能」に応じて、細胞はより専門的な機能に適した姿に変わっていきます。つまり、肺には肺専門の細胞が、肝臓には肝臓専門の細胞が作られていくのです。逆に言えば、骨の中に皮膚ができたり、脳の中に胃ができたりはしません。それらは厳密な統制を受けており、このように専門的な機能を持った細胞に変わっていくことを「分化」と呼んでいます。
  分化をコントロールしているものが何なのかはまだわかっていませんが、がんはこの統制が崩れ、分化とは逆の方向に(未分化と言います)細胞が変容してしまうのです。
  がん細胞は増えるだけでなく、リンパ液や血液に乗って遠くへ流れ、他の臓器に漂着して、そこで増え続けることがあります。これを「転移」と言い、がんが転移した臓器は次第に浸食されていきます。肺は肺の機能を失い、肝臓は肝臓の機能を奪われ、やがて機能不全を起こして死につながっていくのです。がんが他の疾患以上に恐れられる理由は、ここにあります。

口内炎とまぎらわしい口腔がん
  口の中に生じるがん(口腔がん)のなかでも最も多いのは舌がんで、次に歯肉がん、頬粘膜がんと続きます。先頃、かつての名大関が雁思して有名になった「口腔底がん」は、舌の下の部分に生じ、全体の10%程度です。
  いずれのがんも、はじめは 「治りにくい口内炎」として気付かれることが多く、時には強い痛みや出血を伴うこともあります。口内炎はきわめて種類が多く、悪性でなくても治りにくいものがあり、場合によっては正確な診断のため、組織の一部を切除しての病理学的検査が必要になります。
  もし「がん」であっても、その大きさ、位置、細胞の悪性度などによって、治療成績は大きく異なります。基本的には、患部とその周囲を切除する外科的療法、抗がん剤を投与する化学療法、放射線を照射する放射線療法などを組み合わせて治療することになります。
  こんな文章を読むと、つい「自分は大丈夫かしら」と鏡で口の中を覗かれる方もおられるでしょう。ただし、口の中は良く見ると、特に舌などは意外にグロテスクな形をしており、急に不安になることも多いようです。いずれにしても、同じ場所に、長期間、かいよう潰瘍(口内炎)が消えないような場合、一人で悶々と悩んだりせず、まずはかかりつけの歯科医院でご相談ください。詳しい検査が必要なようでしたら、そこから適切な専門機関をご紹介いただけるでしょう。
                                               (小林 晋一郎 こばやし歯科)