味覚とおいしさ

   
 

  舌や口腔粘膜に分布している味受容器が、刺激されて生じる味覚は“おいしさ”にとって最も大事な要素であるが、同じ味質であっても濃度によっておいしく感じたりまずく感じたりする。
  またその日の体調によっても“おいしさ”を感じる度合いが違う。特に消化器系疾患や内分泌系疾患は食べ物の好みの影響を受け易く、ときには、“まずく”感じるときすらある。加齢によって、あるいは食体験を介しても味の好き嫌いが変化することも“味とおいしさ”の生理学的研究を一層、複雑にしている。

「あと味」
  さらに“おいしさ”にとって重要な要素は、食塊を飲み込んだあとに口腔・咽頭部に残る“あと味”であってこの“あと味”は、十分考慮する必要がある。
  食べ物を口に入れ、咀嚼し味わえば、その食品の味や、歯ごたえ、舌ざわりなどとともに、かならず“おいしい”とか“まずい”の感覚がある。今日味覚の生理学的研究は、急速に進歩しおおよそ解明されてきたが、同じく生理学的現象である“おいしさ”や“まずさ”の感性の脳メカニズムについては十分わかっていない。ある種の研究によれば、舌や口腔の後部の味情報を伝える舌咽神経や咽頭部の迷走神経が関与していることが、報告されている。

ヘニングの四原味説
  味について、ヘニング(1924)の四原味説(図1)は今日まで広く信じられてきた。“甘い”“塩からい”“にがい”“すっぱい”といった四味質の組み合わせで、すべての味が形成されると機械的に解釈することは生物科学的に多くの矛盾を感じる。例えば表1に示したように、われわれが日常用いる味の表現は多様であり、これらの味質を前記四原味で説明することは、なかなか困難である。また、渋味物質や、えぐ味物質を動物の舌に与えた場合、舌からの触覚を伝える神経線維だけでなく味覚情報を伝える味神経線維のなかに反応を示すものがあることが、知られている。さらに甘い味を呈するものは決して糖だけでなく人工甘味料や、アミノ酸の中にも甘みを示すものがあって味受容器の現象や大脳皮質味覚領域の神経機構を限定した四原味ですべての味覚を説明することは無理であるということが、生物科学的研究によって次第に明らかになってきた。このように考えると“うまみ”の研究は、われわれが毎日おいしく食べられるということに欠かせないことであり、生き甲斐を感じ、生きる意欲を燃やす最も大切な原動力となっている。しかし何といっても、どんなおいしいものを食べても体調がわるければ、まずいと感じるときもある。また病気であってもその病状に応じて特定の食べ物がおいしく感じられるときもある。平素から体に気をつけ、食事をおいしく味わうようにいたしましょう。                            

 

   
   

表1味の表現のいろいろ

    @ 甘味        sweet   
    A にが味       bitter
    B すっぱ味      sour
    C 塩から味      salty
    D うま味       umami
    E 収斂味(渋味)   astringent
    F ひりひりした味  pungent
    G えぐ味       harsh(acrid)
    H 無味         insipid
    I アルコール味   spirituous
    J くさった味     putrid
    K アルカリ味     alkaline
    L 金属味       metallic
    M 水っぽさ      watery

 

            (鎌倉・大船歯科医師会会員 斉藤文彦 斉藤歯科医院)