ニュートラルゾーンと総義歯について

   
   

 義歯(入れ歯)は、大別すると局部床義歯(部分入れ歯)と全部床義歯(総入れ歯)とに分類されますが、ここでは全部床義歯(以降、義歯床と記す)における一方法を記述させていただきます。
  無歯顎(口腔内に歯が無い状態)の場合に、口腔内にデンチャースペースと呼ぱれる領域が存在します。この領域は、上方では上顎と軟口蓋、下方では下顎と口腔底と舌、側方では口唇と頬粘膜および顎口腔系筋群によって構成されており、さらにこの中にニュートラルゾーンと呼ばれる領域が存在します。
  ここは、側方から口唇や舌および筋肉の力の影響を受けないか、あるいは力が相殺され咀嚼、会話、息を吹く、嚥下などを行う時に、顎口腔系筋群の作用によるさまざまな影響を受けずに、義歯床を安定させる領域です。
  この義歯床が最も安定する領域に義歯床を設計し製作を行うには、デンチャースペースの境を明確に作業模型(義歯床製作のための模型)に写し取り、さらにニュートラルゾーンを義歯床外側面に描写することが大切です。その結果、義歯床の正しい製作が行われて、安定した義歯床が口腔内に装着されます。
  日常生活を安定した義歯の使用によって健康に過すには、調和が大切です。調和が何らかの原因によって乱され、あるいは失われると、義歯床の適合にも影響を及ぼし、安定を失い、疼痛や離脱が起こるようになります。
  日常においても、一日のうちで午前中と午後とでは、顎堤粘膜下の脂肪の量には変化がありますので、厳密に申しますと義歯床の適合に差が生じています。ましてや体調不良や疾病の期間が長く続きますと、義歯床の適合が悪化して疼痛や離脱が起きてきますので、歯科医院での義歯床の調整や新製が必要となります。
  義歯床の適合不良の原因や期間によって処置方法が異なりますので、歯科医院に受診の折には、患者さんご自身の来院までの経過を、歯科医師にお話しいただくことが大切です。また、市販されております緩衝材を用いての義歯床の維持を行う場合はじゅうぷん注意が必要です。
  なぜなら、不用意な緩衝材の使用は、義歯床の維持安定に必要な顎堤骨の異常な吸収を起こす誘因ともなり、さらには、顎位の移動、咬合位の移動、顎関節部の異常、顎口腔系筋群の不調などを惹起しかねませんし、身体に不定愁訴を引き起こさせる誘因となりかねないからです。
  また、長期間における適合不良な義歯の使用においても、同様のことが言えます。古来からの「生兵法は怪我の元」との言い伝えを思い出していただき、義歯床に不具合が生じた時には、歯科医院において適切な処置を受けていただきたくお願い致します。
  最後に、食後において洗面用シンクに水を張り、その上方で義歯用ブラシを用いて義歯床の清掃を行う、あるいは、市販されている義歯用洗浄剤を用いて義歯の清掃を行うとともに、柔らかい毛先(動物の毛を用いた歯ブラシは使用しない事)の歯ブラシを用いて顎堤粘膜面全域の清掃とマッサージを行うなど、日頃から口腔内を清潔な状態に保つように心掛けて下さることをお願い致します。                                       高垣 樹(高垣歯科医院)