乳歯は寿命を全うさせてこそ

   
   

 乳歯のことを、抜けても又生えてくる「トカゲのしっぽ」的存在くらいに考えるのは大きな誤りです。一般的に乳歯は生後六ヶ月頃より生えてきて、三才程で二〇本全部がそろいます。六才頃より徐々に永久歯との生えかわりが始まりますが、完全に永久歯列となるのは一二才頃です。足かけ一〇年程、お世話になるという訳です。
 外見上は乳歯でも、歯ぐきの中には永久歯が、正しく生えかわるべく乳歯の真下で日々発育しています。この永久歯が出てくる時期を迎えると、乳歯の歯根は徐々に短くなり、グラグラしてついに乳歯は自然脱落してしまいます。

  ムシ歯などの理由で早い時期に乳歯を失うことを「乳歯の早期喪失」といい、いろいろな弊害をもたらします。そのひとつが不正咬合です。例えば、乳歯の抜けたところをそのまま放置しておくと、両隣の歯が寄ってきてスキ間がせまくなり、永久歯が正しく生えるための余地がなくなったりすることがあります。また片方の臼歯が喪失した場合、片咀嚼(片側だけでものを咬む習憤)になり、顔の非対称を招く原因にもなったりします。これらのように喪失する時期や部位により、その様相は異なりますが、実際に不正咬合の約三〇%が乳歯の早期喪失によるものと考えられています。

  乳歯の喪失の主な理由はムシ歯や外傷だといえます。特にムシ歯は年々少なくなっているとはいえ、四才児の罹患率が約八〇%と高い数字です。乳歯のムシ歯は永久歯と比べ、進行が早く、ひとたび発症すると多数歯に渡りやすいのも特徴のひとつで、保育者の育児姿勢がとても大切になってきます。

  歯みがきは、現代の人間が健康的に生きていくために重要な生活習慣のひとつです。しかし小さな子供にキチンとハブラシで歯みがきをさせるのは至難の業。何とか歯みがきを楽しく身につけさせる方法はないでしょうか。歯みがきは赤ちゃんの上の歯が四本程度生えそろった頃が始めどきかと思われますが、突然見慣れない物がお口の中に入ってきても、赤ちゃんは嫌がるだけです。又、上くちびるのまん中つけ根には唇をつっているヒダがあり、ここに物が触れると痛いのです。最初はこの部分を指でさわったりして、徐々に慣らしましょう。

 またこの頃の赤ちゃんは何でも口の中に入れる時期ですのでおもちゃのひとつとして歯ブラシを加えてみてはいかがでしょうか。歯が生えそろってきたら歯みがきはお母さんのひざの上に頭をのせて、口の中をのぞき込む形で行うと都合がよいのですが、子供はじっとしていません。時には気分を換えて、お風呂の中や、ゆったりソファーにすわってテレビを見ながらしてみましょう。又子供はお母さんのマネが大好きです。お母さんもいっしょに"ながらみがき"をしてはどうでしょうか。一日三回みがければそれに越したことはありません。それが難しければ毎日、夜寝る前だけでもよいと思います。
 
寝ている間は睡液の分泌量が少なく、自浄作用も働かず、ムシ歯菌としては一番活動できる時間です。そして大切なのは、歯と歯の間、奥歯の咬合面などムシ歯の好発部位を重点的にみがくことです。フロスを使うのも歯ブラシ嫌いな子供には案外効果があることもあります。理想を高く持ち過ぎず、少しずつレベルアップする気持ちで、気長に歯みがきを習慣づけましょう。

                                           (鎌倉・大船歯科医師会 上田順一 うえだ歯科)