落ちない入れ歯

   
   

 「テレビで宣伝している入れ歯の安定剤を使ってもいいですか。」総入れ歯が落ちやすくなった患者さんからよく聞く質問です。入れ歯の安定剤を使用すると本当に「落ちない入れ歯」になるのでしょうか。
  現在薬局などで市販されている入れ歯の安定剤には、大きく分けて二種類のタイプがあります。ひとつはチューブ入りの歯みがき剤のようなタイプで、入れ歯の内面に薄く均一にのぱして使用するもの、もうひとつは、粉状のタイプで内面にふりかけた後、水で湿らせて使用するものです。
  前者のタイプは、種類も多く出回っており、粘り気・におい・硬さも様々です。このタイプの安定剤は、入れ歯を長年使用されているうちに、顎の骨がやせて適合状態が悪くなり、入れ歯との間にすき間ができてしまったような場合に効果があります。
  とはいっても効果がでるのは、偶然に安定剤の量が過不足なく、延ぱし方が均一にうまくいったとき、という条件付きで、なかなか毎回同じようにうまく盛れるものではありません。
  また量が多すぎたり、うまく延ばせなかったりすると、入れ歯がかえって不適合になったり、安定剤の厚みにより、入れ歯本来のかみ合わせの高さが変わってしまう恐れがあります。
  後者のタイプは、歯科医院で入れ歯の適合状態を改善し、「内面はかなりぴったりしたのにそれでも落ちてしまう」というような場合に、補助的なものとしておすすめしています。
  粉状の安定剤を水で湿らせて、粘り気を出させることで入れ歯の吸着を助けようとするものですから、使用量を間違えない限り、安定剤による厚みが生じることはありません。言いかえれぱ、かみ合わせの高さを変えてしまう危険性が少ないということです。逆に粉のタイプのものは、入れ歯と顎のすき間を埋めて適合状態を改善しようとする目的には、やや不向きといえましよう。
  やむを得ず入れ歯の安定剤を使用する場合には、使用目的によって使い分ける必要があるわけです。
  では、「安定剤の使用=落ちない入れ歯」かというと、残念ながらそううまくはいきません。安定剤により入れ歯の適合状態を改善し、吸着力を増すということ以外に、落ちない入れ歯を実現させるためには、三つの大事な要件があるからです。
  一つ目は、入れ歯をどこまで広げるか、すなわち境目をどこに設定し、辺縁の形をどのようにするかということ。二つ目は、入れ歯のかみ合わせをどのように与えてあげればよいのかということ。そして三つ目は、入れ歯と頬・舌の形態がどれくらい機能的に調和しているかということです。入れ歯内面の適合性とあわせ、ここにあげた四つの要件が、患者さん個々のお口の中の状態にあわせて、すべて過不足なく盛り込まれたとき、初めて「落ちない入れ歯」が現実となるわけです。
  入れ歯の難症例といわれるケースであれぱあるほどその傾向は強く、単に入れ歯安定剤を使えぱ何とかなる、というものではありません。
  お友達との楽しい会話、こ家族とのお食事のひと時などに、入れ歯の落ちることをつねに心配し、入れ歯安定剤が手放せない方は、ぜひ一度かかりつけの歯科医院を受診して、こ相談されてみてはいかがでしょう。
                                                   (宮本 績輔 宮本歯科医院)