三叉神経痛の話

   
   

 何の前触れもなく、突然、顔や口の中の一部に激痛が走り、数秒から数十秒続いては消え、しばらくしてまたこれを繰り返す。通常の痛み止めは全く効果がなく、時には大の男が転げ回るほど痛みが強くなる − そんな症状を特徴とする疾患に、「三叉(さんさ)神経痛」があります。

  三叉神経とは、脳から顎・顔面に分布する十二本の脳神経のうちの一本で、かつ最大のものです。脳を出てすぐに頭蓋骨の中で三本の太い枝に分かれるので、三叉神経という名が付いています。それぞれの枝は、別々のルートを通って、左右対称に骨の表面に出てきます。
  一本目の枝(第T枝)は眉毛の中央あたりに、二本目の枝(第U枝)は目をはさんでちょうど反対側、すなわち瞳の真下あたりに、それぞれ出口があります。第U枝から分かれたたくさんの細い枝は、頬や上唇、上顎の歯や歯茎に広く分布し、その知覚をつかさどります。
  三本目の枝(第V枝)は、下顎の骨の中を通り、小臼歯のあたりから表面に出てきます。下唇、下顎の皮膚、歯、歯茎などの知覚は、この第V枝から分かれた枝がつかさどります。(ちなみに三か所の出口は縦に一直線に並んでいます。)

  三叉神経痛とは、この三叉神経の走行に沿って、発作性に現れる電撃様疼痛(とうつう)、とされています。簡単に言えば、何らかの原因によって三叉神経が痙攣すると、電撃で打たれたような激痛が生じる、ということになります。一説によればその痛みは、「人間が経験する最も激しい痛みのひとつ」とまで言われています。
  しかし実のところ、はっきりした原因はわかっていません。神経の機能異常、神経炎の一種、局所貧血による酸素供給不足、など諸説紛々です。
  痛みが左右両方に同時に出現することはまれで、ほとんどは片側、それも第U・第V枝に出現することが多いようです。年齢としては40歳以上、男性よりは女性に多いとされています。何のきっかけもなく突然生じることもあれば、洗面や接触、あるいは冷たい風に吹かれるなどがきっかけとなる場合もあります。
  間歇(かんけつ)的な反復性の激痛以外に、診断に役に立つ特徴としては、痛みのない時期に口の中の特定の部位を刺激すると、疼痛発作が誘発されることが多く、このような部位をパトリックの発痛帯と呼びます。
  また、前述した神経の出口を皮膚の表面から圧迫すると、罹患している神経の枝には痛みが生じることから、判別に役立ちます。(これをヴァレーの圧痛点と呼びます。)

  いずれにしても、三叉神経痛であれば、一般的な鎮静剤は効果がありません。服用して効果があるのは、てんかんの発作に使用する抗痙攣薬の一種です。副作用として眠気やふらつきが出ることもあり、少量から始めて徐々に増量したり、あるいはこの薬に種々の鎮静剤や鎮痛剤を組み合わせて使用したりします。これで効果がなければ、神経の出口に麻酔薬やアルコールを注射して神経をブロックします。それでも駄目なら、神経の一部を切る、あるいは捻除(ねんじょ)する方法もありますが、これは知覚も失われるという欠点があります。脳動脈の一部が三叉神経を圧迫していることが原因である場合は、この動脈の外科的な処置で治癒することもあります。

  これまで述べてきたのは、真性三叉神経痛と呼ばれる典型的な症状を伴う疾患ですが、これとは別に、仮性三叉神経痛と呼ばれる疾患があり、こちらは症状、原因、年齢層とも、かなり多種多様で、診断も難しいことがあります。歯や歯茎の疾患が神経症状を誘発している場合もありますので、いずれにせよ顎・顔面の痛みがあれば、まずはかかりつけの歯科にご相談下さい。
                                  (鎌倉・大船歯科医師会  小林晋一郎 こばやし歯科医院)